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思えば、僕が薄情であるのは生まれる前から決まっていたわけだ。物を通り抜けることができたり、姿を自在に変えれたりする力を持っているということも。
三代目怪盗20面相
それが僕に与えられた名前。生まれる前からきめられていた名前だ。
最初はどうでもいいと思っていた。父さんも二代目になることを当然のように受け入れていたし、父さんが死んだ後は僕が20面相になるというのは至極当たり前のことだと受け入れていた。
「三代目だよ?三代目。洋風にいえばマンキーパンチの漫画の主人公みたいじゃないか。」
と、母親に言ったら、困ったような顔で「そう、それはよかったわね。」と、いわれた。
正直に告白させてもらうと、結局のところその頃、僕は事の重大さを何もわかっていなかったのだ。
僕が中学に上がった頃、祖父が、初代怪盗20面相が亡くなった。
―――――――――――――そして、僕は自分の父親も永遠に失った。
「やはり、こうなってしまったか。」
そういって祖父のねむる居間で涙を流した父親と、僕を胸に抱いて声を押し殺すように泣いていた母親の顔を、僕は恐らく生涯忘れないと思う。
その日、僕は自分が妖怪と呼ばれる存在であることを知ったのだ。
世界には、大きく分けて二種類の生まれ方があるのだと父は言った。
一つは、親となる存在から、種、卵、赤ん坊、細胞分裂などの形をとって物理的に産み落とされるという生まれ方。
もう一つは、人の思いが力をあつめて形作る、という生まれ方。
神話や伝説、御伽噺から学校の怪談まで、実在しないといわれながらもどこかでそれを恐れる、あこがれる、そういった思いが実在しないものを生み出してしまうということがあるらしい。ほかにも、大切にされている道具、まるで人のようにあつかわれる物にも、意思や命が生まれてくることがあるともおしえられ、家に住み込みで働いていた少女がストーブの精とも言える妖怪だという話には正直どう答えていいか分からなかった。
僕は妖怪とか、力とか、実に笑えない冗談だと思った。思いたかった。
だけど、だけど一人寝室に篭ってしまった母や、まるで祖父のような話し方をする父がそれが事実であることを雄弁に語っていて、
そして自分もいつか三代目になるという事実が、僕から全ての希望を奪い去っていった。
冗談じゃない。それが僕の思いを端的にいうとそうなる。
そんな僕を尻目に、父が、いや、今や二代目として父の体にのりうつった怪盗20面相という妖怪は、自分には初代しての人格と記憶のほかに、僕の父としての記憶もあると続けた。
だが今こうして話している自分はあくまで僕の祖父であるように思う、ともいったが。
その一週間後、母は自殺した。
父は僕と同居し続けられる自身が無いと、僕を古い友人であるというA県の喫茶店を営む男性の下に住み込みで働いていた女の子ごと預け、どこへとも無く姿を消した。
最後に彼は、
「お前は、こんな目にあってほしくない」
と言っていたから、何がしらの方法で僕を救おうとしてくれたのだろう。財産の相続についてまで女の子(のちに僕より40は年上だと知ったのだが)に指示していった辺りからして、
どのような手段を用いたのかなんとなく予想はついている。
僕に残ったのは、中途半端に受け継いだ妖怪としての力と、唯一僕の元に残った祖父の部下、冬樹 灯子(ふゆき とうこ)の他に、
遠藤 平吉(えんどう へいきち)といういささか時代遅れの名前だった。
そう、そのはずだったのだが・・・・・・
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